LOGIN「わたしに、恋を教えて下さい!」 物心つく前に両親が離婚し、母一人子一人の母子家庭で育った25歳のOL・佐々本若菜。 母は働きながら若菜を大学にまで行かせてくれたが、その学費の出どころだけは母も教えてくれず謎のままだ。 若菜は財閥系の一部上場企業である大手商社の経理部で働いているが、社長の御曹司である連城寛斗はどうも若菜がお気に入りの様子で……? 恋を知らない地味OLとキラキラ御曹司のじれキュン恋物語。
View More ――二十五歳の地味系OLであるわたし・
わたしの両親は、わたしがまだ物心つく前に離婚したらしい。そのため、わたしは父親がどんな人だったかまったく憶えていない。それ以来、母がわたしを父と会わせようともしなかったからだ。
わたしと母は二人で、都内の公営住宅で生きてきた。母はわたしを私立の大学へも進ませてくれたけれど、奨学金は受けなかった。
『お金の心配ならしなくていいから。若ちゃんは行きたい大学へ進みなさい。バイトくらいはしてもいいけど、そのお給料は若ちゃん自身のために使っていいからね』
学費のことは気になったけれど、母は笑いながらそう言ってくれた。いくらフルタイムで働いていたといっても、私立の大学の学費までそう簡単に稼げるような業種だとは思えなかった。母はごく普通の会社員で、月三十万円のお給料で親子二人の生活費と大学の費用まで
もし父が出してくれたのだとしたら、父は資産家ということだろうか。もしそうなら、どうして母と離婚することになったのだろう? 当時、まだ二歳になるかならないかくらいの幼い娘――わたしがいたのにも関わらず。それもまた謎である。
というわけで、母が多分ムリをして進ませてくれた大学時代、私は勉強とアルバイトに明け暮れた。けれど、当時からオシャレをするほどお金にも気持ちにも余裕がなく、地味な外見だったわたしには恋愛というものに縁がなかった。いや、中学生の頃から恋なんてしたこともなかったのだけれど。
「この人カッコいいな」と憧れていた同級生や先輩もいないことはなかったけれど、それは結局恋ではないと自分で悟ってしまった。わたしみたいな地味子なんかが相手にされるわけがないと早々に
そして「初恋」というものを知らないまま大人になり、わたしは一部上場企業の大手商社・〈
元々数学の成績はよく、計算も得意だったので経理の仕事はこんな地味で他に真面目なだけしか取り柄のないわたしにとっては天職だと思える。だから、この先も仕事だけを生き
――そして月が明け、七月。わたしの初の大仕事となったイベントの前日、吉田商店さんから発注していたイベントのグッズが無事に納品された。「吉田社長、わざわざ届けて下さってありがとうございます! ご連絡頂けましたら、こちらで受け取りに伺いましたのに」 グッズは吉田商店の社長さんと社員のみなさまが、わざわざ直接運んできて下さった。「いえいえ。佐々本さん、あなたがこれを発注して下さった時に直接足を運んで下さったんで、我々もこうして直接納品に来たんです。誠意には誠意、これが私のモットーでしてな。今後とも、御社とはよいお付き合いをしていきたいと思っております」「こちらこそ、今後ともよろしくお願い致します。本当にありがとうございました」 吉田商店はわたしが初めて開拓した新規の取引先だ。寛斗さんだけじゃなく、社長もわたしのこの仕事を高く評価して下さった。 納品されたグッズはどれも品質も申し分なさそうで、コストを今までより低く抑えてもこれだけのクオリティーの商品ができるなら、やっぱり〈アイワ商事〉からは相当高い金額をふっかけられていたんだということが分かる。「では、こちらが受領証となります。お約束どおり、イベントの収益から何割かを御社に分配しますので」 わたしから受領証を受け取った吉田社長は、「分配は一割で構いませんよ」とおっしゃった。お金よりも、この仕事をやり遂げたことの充実感の方が大きかったから、と。 翌日はよく晴れてイベント日和だった。わたしたち経営戦略部もグッズのポロシャツやTシャツを着て、イベントの運営に携わった。 美咲さんがいなくなり、当初のメンバーから一人足りなくなったけれど、
――オフィスに戻ると、美緒が「おかえり」と言ってくれた後、わたしの目が少し赤くなっていることにいち早く気づいてくれた。「……あれ? 若菜、さっき泣いた? ちょっと目が赤いような」「うん、ちょっとだけね。でも美咲さんにじゃなくて、わたしのことを疑った経理部長にムカついて、つい感情が昂っちゃって」「そっか……。それで、野田さんはどうなったの?」 わたしは美緒に、美咲さんは横領犯として警察に連行されたこと、そして会社は懲戒解雇処分になることを報告した。そして、警察が来る前に堀田さんが彼女を平手打ちしたことも。「堀田さんって、ホンモノの親友だったんだね。野田さんに裏切られてさぞ悔しかったろうと思うよ。もしあんたが美咲さんで、あたしが堀田さんの立場でも絶対殴ってるもん。多分、逆でもそうなったと思う。でしょ、若菜?」「うん。わたしが堀田さんの立場でもそうしてた」 もちろん、これはあくまでもたとえばの話で、わたしも美緒も横領なんて絶対にしないけれど。「で、結局あの女があんなことした理由って何だったの? まさか、あんたへの嫌がらせってだけで?」「そのまさか。彼女ね、最後までわたしに恨み節言ってた。『あんたのせいで』とか、『この女がいなければ』とか。もう見苦しいったら」「あれまぁ、あんたも災難だったねぇ……。妙な女に絡まれて」「うん、ホントにねー。でももう、うるさい犬にでも噛まれたと思って忘れるよ。美咲さんは法で
「佐々本さん、申し訳ない! 君を横領犯だと決めつけて、疑ってしまって。元部下の君を傷付けてしまった。私を許してくれとは言わない。名誉棄損で訴えたいというなら、それでも構わない。このとおりだ!」 荒木部長はその場でわたしに土下座をして謝った。わたしは元上司のそんな姿を目にして、怒りよりもむしろ憐れみを感じた。わたしがかつて尊敬していた、部下思いの荒木部長はこんな人だったのか……。「……もういいです、荒木部長。わたしはあなたを訴える気なんてありません。でも勘違いしないで下さいね? あなたを許したわけじゃないですから。わたし、本当に傷付いたんです。元経理部だからってだけで、証拠もないのに疑われて。許せるわけないじゃないですか。もちろん、わたしを嵌めた美咲さんのことは許せないですけど、それと同じくらい部長のことも恨みますよ。それだけ悔しかったんです、わたし」 もっと毅然と向き合いたかったのに、気がつくと涙がポロポロと零れてきた。そういえば、寛斗さんの前で泣いたことなんて今までに一度もなかったかもしれない。「……でも、訴えたらその分お金も時間も取られるんです。わたしはそんなことにかまけてる場合じゃないんです。今抱えてる仕事は責任も重いし、寛斗さんとは結婚も控えててやらないといけないことが山ほどあるんです。だから訴えない、それだけです。部長が反省して、もうこんなことはしないって約束して下さるなら、この件はもうこれで終わりにしてもいいですよ。ちょっと
「……堀田さん、大丈夫ですか? 美咲さんが捕まったのは堀田さんのせいじゃないですよ。彼女の自業自得です」「うん……。ありがとう、佐々本さん。分かってはいるんだけどね、やっぱりショックなの。私がもっと早く止められてたらな……って思うと」「堀田さん、あまり自分を責めるなよ。君のせいじゃないし、こうでもならないと彼女の暴走は止められなかったんだから」「連城部長……。はい、そう……ですよね」 寛斗さんに優しく慰められた堀田さんは、やっと美咲さんという重荷から解放されたようにホッとした顔をして「それじゃ、私はこれで失礼します」と会議室を出て行った。彼女は制服のままだったので、わざわざ仕事を抜け出してきてくれたんだと思う。何だか呼びつけてしまって申し訳なかったな……。「――さて、寛斗。野田美咲君のことだが、犯罪者となってしまった以上、会社としても処分を下さないわけにはいかない。それはお前も分かっているな?」「もちろん分かってます。俺も、彼女を庇い立てするつもりはありません。彼女はやってはいけないことをしてしまったんですから」「……あの、わたしは外しましょうか?」 役員三人が美咲さんの処遇について話している席に、部外者であるわたしはいない方がいいだろうと思ってそう言ったのだけれど。「いや、君は残っていてくれ。この件の被害者である君の意見も聞きたいからね。構わないでしょう、社長?」「そうだな。そういうことなら、分かった。佐々本君、君もこの場にいてくれ」
「でも、その人は若ちゃんがいいっておっしゃってるんでしょ? それにはちゃんと理由があるんだとお母さんは思うなぁ」「理由……ねえ。美緒が言うには、わたしの真面目なところとか、御曹司である自分に言いたいことズバズバいってくれるところが気に入ってるんじゃないかって。……でも、彼がわたしにこだわる理由は他にも何かあるんじゃないかなって思うんだけど」 それだけの理由で、あの人がわたしみたいな地味子に固執するとは思えない。わたしの知らない、何かもっと
「――お母さん、ただいま」 足立区にある団地に帰ると、わたしは三階にある家の玄関ドアを開けて母に呼びかけた。母は団地から自転車で通える範囲にある小さな会社で、フルタイムで事務と経理の仕事をしている。わたしも計算が得意なのは、間違いなく母からの遺伝だろう。 職場が近いので、間違いなくわたしより先に帰っているはずだ。途中でスーパーなどに寄って買い物をしていなければ。 ちなみに、ウチの団地はエレベーター付きなので昇り降りが楽だ。築五十年近くになるけれど、十年くらい前に老朽化と耐震化のためにフルリノベーションしたのでそれほど古さを感じない。「おかえり、若
「――佐々本さん、藤崎さん、お疲れ」 そこへ、ウワサの寛斗さんが緩んだネクタイを締め直しながら通りかかり、わたしと美緒に声をかけて下さった。もしかして、帰りじゃなくてこれからどこかへ行くところなんだろうか?「連城部長、お疲れさまです。これから外出ですか? お帰りのようには見えませんけど」「うん。これから父と一緒に接待でね。俺はあくまで付き添いだけど、次期社長としては行かないわけにいかなくて。二人は今帰るところかな?」「あ……、はい……。お疲れさまです……」 同じ部署の上司と部下だけあって、普通に彼と会話している美緒とは違い、わたしはどう話していいか分からずにしどろもどろだ
他人の無責任な悪口ほどタチの悪いものはない。その人たちはきっと、実際のわたしがどれだけ頑張って毎日働いているのか知らないから、そんな好き勝手なことが言えるんだと思う。 「そもそも、今まで全っっ然恋愛に縁のなかったわたしがどうやったら男誑し込めるわけ? その人たちバカじゃないの?」「……若菜、あんたもたいがい辛辣だよね」 わたしも無性に腹が立って珍しく毒舌を吐くと、美緒に苦笑