溺愛御曹司の恋愛指南♡ ~初恋女子はお坊っちゃまから愛されすぎる~

溺愛御曹司の恋愛指南♡ ~初恋女子はお坊っちゃまから愛されすぎる~

last update最終更新日 : 2026-07-23
作家:  日暮ミミ♪完了
言語: Japanese
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概要

一人称

現代

溺愛

OL

おとなしい子

秘密恋愛

初体験

「わたしに、恋を教えて下さい!」 物心つく前に両親が離婚し、母一人子一人の母子家庭で育った25歳のOL・佐々本若菜。 母は働きながら若菜を大学にまで行かせてくれたが、その学費の出どころだけは母も教えてくれず謎のままだ。 若菜は財閥系の一部上場企業である大手商社の経理部で働いているが、社長の御曹司である連城寛斗はどうも若菜がお気に入りの様子で……? 恋を知らない地味OLとキラキラ御曹司のじれキュン恋物語。

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第1話

プロローグ

氷室彩葉(ひむろ いろは)は力なくベッドに横たわり、冷たい器具が、鈍く痛む下腹部を滑っていく感触に耐えていた。

「赤ちゃんは……大丈夫ですか……?」震える声で尋ねると、医師は憐れむように溜息をついた。

「切迫流産です。残念ながら……お子さんの心音は、もう聞こえません」

その瞬間、彩葉はシーツを強く握りしめた。心臓が氷の手で鷲掴みにされたように、軋む。

「仮に心音が確認できたとしても、出産は推奨できませんでした。火災で大量の有毒煙を吸い込まれている。胎児への影響は計り知れません」

二時間前──氷室グループ傘下の新エネルギー研究室で火災が発生し、彩葉は開発中の最新チップを守るため、躊躇なく炎の中に飛び込んだ。

チップは守れたものの、彼女自身は濃い煙に巻かれて意識を失ったのだ。

救急室に運ばれた時、体は擦り傷だらけで、下半身からは血が流れ、目を覆いたくなるほどの惨状だったという。

家庭と仕事に昼夜を問わず奔走し、心身ともに疲れ果てていた彼女は、この時になって初めて、自分のお腹に新しい命が宿っていたこと──妊娠二ヶ月だったことを知った。

「あなたはまだ若い。きっとまた授かりますよ」

医師はそう慰めながら、「今は安静が第一です。ご主人に連絡して、付き添ってもらってください」と告げた。

身を起こすことすら億劫な体で、彩葉は夫である氷室蒼真(ひむろ そうま)に電話をかけるのを躊躇った。

二日前、彼は息子の氷室瞳真(ひむろ とうま)を連れてM国へ出張したばかりだ。

「プロジェクトの商談だ」と彼は言っていた。仕事中の彼が、邪魔をされることを何よりも嫌うことを、彩葉は知っていた。ここ二日間、彼からの連絡は一切ない。それほど忙しいのだろうか。

その時、携帯の短い振動が静寂を破った。

画面に表示されたのは、異母妹である林雫(はやし しずく)の名前。

震える指でメッセージを開いた彩葉は、息を呑んだ。

そこに添付されていたのは、一枚の写真。雫が息子の瞳真を抱きしめ、二人で笑顔のハートマークを作っている。そしてその隣には、眉目秀麗な夫・蒼真が静かに座っていた。

結婚写真すら「くだらない」と撮ろうとしなかった彼が、その写真の中では、薄い唇の端をわずかに上げ、滅多に見せない穏やかな笑みを浮かべていた。

その姿は、まるで幸せな三人家族そのものだった。

【お姉ちゃん、今ね、蒼真さんと瞳真くんとミュージカルを観てるの。「ナイチンゲールの歌」って、お姉ちゃんが一番好きな作品よね?お姉ちゃんの代わりに、私が先に観ちゃった!】

チケットは常に完売で、手に入れることすら困難な人気の演目。

いつか一緒に観に行きたい、と何度も蒼真に伝えたが、いつも冷たく突き放されるだけだった。

「今忙しいんだ。それに瞳真もまだ小さい。また今度だ」

……忙しいんじゃなかった。ただ、自分と行きたくなかっただけなんだ。

元々張り裂けそうだった胸に、鋭い杭を打ち込まれたような激痛が走る。

それでも諦めきれず、病室に戻った彩葉は腹部の痛みに耐えながら、蒼真に電話をかけた。

数回のコールの後、低く、それでいて芯のある冷ややかな声が鼓膜を揺らす。

「……どうした」

「蒼真……ごめんなさい、体調が悪くて、病院にいるの。少しだけ、早く帰ってきてもらえないかな……?」彼女の顔は蒼白で、声には力がなかった。

「こっちはまだ商談中だ。戻るのは二日後になる。家のことは山根に任せろ」蒼真の態度は、どこか冷めていた。

彩葉はスマホとを握りしめる。「……ねえ。もしかして、雫と一緒にいるの?」

その問いに、蒼真の声は露骨な苛立ちを滲ませた。「彩葉、そんな詮索に何の意味がある?もう五年だぞ。雫は妹のようなものだと何度も言ったはずだ。仮に一緒にいたとして、それがどうした。

最近のお前は、仮病まで使って同情を引こうとするようになったのか?」

「パパ、声大きいよ!僕と雫の邪魔しないでよ!」

電話の向こうから、瞳真の高い声が響いた。「もうママなんてほっときなよ!本当にうざいんだから!」

彩葉が何かを言う前に、通話は一方的に切られた。

ほんの少しの時間すら、彩葉のために割いてはくれない。

がらんとした病室で、彼女は布団を固く握りしめ、体の芯から冷えていくのを感じていた。

三日後、彩葉は無理を言って退院した。

研究開発部の仕事が、まだ山のように残っていたからだ。

特に今回の新製品発表会は、蒼真も期待を寄せている。そして自分にとっても、この二年間心血を注いできたプロジェクトを、成功させたかった。

夕方、疲れ切った体を引きずってブリリアージュ潮見の自宅に戻ると、リビングから楽しげな笑い声が聞こえてきた。

息子の瞳真と、雫の声だ。

胸がどきり、と嫌な音を立てる。彩葉はとっさに身を隠し、鉢植えの影からリビングの様子を窺った。

ソファには、氷室父子の間に座る雫の姿があった。テーブルの上には、バースデーケーキ。そして彼女の首には、赤いルビーのネックレスが輝いていた。それは某高級ブランドの世界限定品だ。

先月、ショーウィンドウで見かけて心惹かれたものの、目を見張るような値段に諦めた、あのネックレス。

それが今、雫の胸元を飾っている。

「蒼真さん、素敵なプレゼントをありがとう。すごく嬉しいわ」雫はペンダントに優しく触れ、潤んだ瞳で男の端整で凛々しい顔を見つめる。「でも、こんな高価なもの……これからは無理しないで。気持ちだけで十分嬉しいから」

蒼真は淡然とした表情で言った。「金などどうでもいい。お前が喜んでくれるなら、それが一番だ」

「ねえねえ雫、お目々閉じて!」瞳真がはしゃいだ声で言った。

雫が素直に瞳を閉じると、瞳真は小さな手で、色とりどりのクリスタルが繋がれたブレスレットを彼女の腕に通した。

「もう開けていいよ!」

「わぁ、綺麗!」雫は驚きの表情を見せた。

瞳真はへへっと笑い、頭を掻く。「これね、僕が一つひとつ選んで、糸に通したんだ。雫への誕生日プレゼント!」

「ありがとう、瞳真くん。一生大切にするわ」雫が身をかがめて瞳真の額にキスをしようとした、その時。

瞳真は自ら顔を上げ、ちゅっ、と音を立てて雫の頬にキスをした。

瞳真は父親に似て、どこか冷めた子供だった。実の母親である彩葉にさえ、ほとんど懐こうとしなかったのに。

自分が喉から手が出るほど欲しかったものを、雫はこんなにもたやすく手に入れてしまう。

嫉妬と絶望で、胸の奥がキリキリと痛んだ。

瞳真はキラキラした目で雫を見つめ、真剣な顔で言う。「雫は体が弱いから、これからは僕とパパが守ってあげる。だから安心してね」

「ふふっ……ありがとう。頼りにしてるわね」雫は恥じらうように頬を染め、ちらりと隣の男に視線を送る。

蒼真は切れ長の瞳を細め、自らケーキを一切れ切り、雫の手に渡す。

血の気が、すうっと引いていく。立っていられなくなりそうだった。

全身全霊で愛した夫は、他の女の誕生日を祝い、命がけで産んだ息子は、母親からすべてを奪った女を守ると誓う。

彩葉は、赤く染まった目で静かに笑った。そして踵を返すと、五年もの間自分を縛り付けた結婚という名の牢獄から、毅然と歩み出した。

自宅の外は、冷たい雨が降っていた。

全身ずぶ濡れになりながら、彩葉は道端に立ち、久しぶりにかける番号を呼び出す。電話の向こうから、懐かしい声が聞こえた。

「お嬢!お久しぶり!元気か?」

「えぇ、元気よ」彼女は微笑んだ。その美しい瞳には、かつてないほど冷徹な光が宿っていた。

「離婚することにしたの。だからお願い、離婚協議書を用意してちょうだい。なるべく、早くね」

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プロローグ
 ――二十五歳の地味系OLであるわたし・佐々本若菜は、まだ本当の恋というものを知らない。 わたしの両親は、わたしがまだ物心つく前に離婚したらしい。そのため、わたしは父親がどんな人だったかまったく憶えていない。それ以来、母がわたしを父と会わせようともしなかったからだ。 わたしと母は二人で、都内の公営住宅で生きてきた。母はわたしを私立の大学へも進ませてくれたけれど、奨学金は受けなかった。『お金の心配ならしなくていいから。若ちゃんは行きたい大学へ進みなさい。バイトくらいはしてもいいけど、そのお給料は若ちゃん自身のために使っていいからね』 学費のことは気になったけれど、母は笑いながらそう言ってくれた。いくらフルタイムで働いていたといっても、私立の大学の学費までそう簡単に稼げるような業種だとは思えなかった。母はごく普通の会社員で、月三十万円のお給料で親子二人の生活費と大学の費用まで賄えるはずがないのだ。だから、わたしの進学費用がどこから出ているのか、わたしにはまったく見当がつかない。 もし父が出してくれたのだとしたら、父は資産家ということだろうか。もしそうなら、どうして母と離婚することになったのだろう? 当時、まだ二歳になるかならないかくらいの幼い娘――わたしがいたのにも関わらず。それもまた謎である。 というわけで、母が多分ムリをして進ませてくれた大学時代、私は勉強とアルバイトに明け暮れた。けれど、当時からオシャレをするほどお金にも気持ちにも余裕がなく、地味な外見だったわたしには恋愛というものに縁がなかった。いや、中学生の頃から恋なんてしたこともなかったのだけれど。「この人カッコいいな」と憧れていた同級生や先輩もいないことはなかったけれど、それは結局恋ではないと自分で悟ってしまった。わたしみたいな地味子なんかが相手にされるわけがないと早々に諦めてしまっていたのだ。所詮、憧れは憧れでしかなく、それが恋に発展することはないのだと。 そして「初恋」というものを知らないまま大人になり、わたしは一部上場企業の大手商社・〈連城ホールディング〉に入社し、経理部に配属された。 元々数学の成績はよく、計算も得意だったので経理の仕事はこんな地味で他に真面目なだけしか取り柄のないわたしに
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地味子にご執心のお坊っちゃま Page1
 ――その人の名前は連城寛斗さんという。現在、わたしより二歳上の二十七歳。この会社の社長の一人息子であり、次期社長といわれている人だ。 彼は総合職でこの会社に入社し、いちばんの出世コースと言われている経営戦略部の部長を務めている。それも決して縁故入社ではなく、実力で入社したというから根っからのエリートなのだろう。 身長は百五十八センチのわたしより二十センチ以上高く、学生時代にキックボクシングをやっていたらしくて体格は程よく筋肉質。人当たりのいい性格で、女子社員からもモテまくっている。 寛斗さんは生粋の御曹司にしてエリート。そして陽キャ。陰キャであるわたしとは対極にある人物である。なのに、彼はどういうわけかこんなわたしにご執心なのだ。そこまでわたしに固執する理由がさっぱり理解できないけれど、どうやら彼はわたしのことが本気で好きらしい。それだけは確かだ。「――寛斗さん、このタクシーの領収書、日付が入ってませんよ。これは経費として認められません」 寛斗さんは今日も領収書の束を持って、経理部にいるわたしを訪ねてきた。 もちろん仕事で来ていることはわたしにも分かっているけれど、何もわざわざわたしのところへ来る必要はないんじゃないだろうか。これは明らかに、仕事を口実にしてわたしに会いに来ているとしか思えない。「佐々本さん、つれないなぁ。こんな細かいことは気にするなって。他の人は見逃してくれるのに」 彼はお坊っちゃま育ちのせいか、ちょっといい加減なところがある。こんな人が会社の後継者で大丈夫なんだろうか?「他の人が見逃しても、わたしはダメだって言ってるんです。お金のことはキチンとしないと! たとえ少額でも、後から大問題になることがあるんですからね!」「分かった分かった! 次からはキチンとするから、今日だけは見逃してくれよ、なっ?」 経理部にいる周りの同僚や上司は、〝寛斗坊っちゃま〟にお説教をしているわたしを冷や冷やしながら見ている。きっと生意気だと思われているんだろうな。 でも、わたしの言うことは間違っていないはずだ。社長の御曹司だろうと平社員だろうと、お金に関することでルーズになってはいけない。それが会社の経費ならなおのこと。一円の重さは(※
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地味子にご執心のお坊っちゃま Page2
「…………あの、連城部長? それはデートの申し込み……という解釈でよろしいでしょうか?」こういうシチュエーションにまったく免疫のないわたしは、動揺しすぎて呼び方まで変わってしまう。普段は「寛斗さん」呼びなのに。「なんでいきなり役職呼び? ……それはいいとして、もちろん本気だぜ? 俺、君のことが気に入ってんだよ。俺に遠慮なくズケズケ意見する女子社員なんて、君くらいのもんだからさ」「…………はぁ」「あれ? なんかリアクション薄くねえ?」わたしは入社してから何度もこういうお誘いを受けているのだけれど、こういう時どういうリアクションを取っていいのか分からない。他の女子社員なら「ぜひ!」なんて目を輝かせて喜ぶところなんだろうけれど、わたしの場合は「どうしてわたし、誘われてるの?」という戸惑いの気持ちの方が大きいのだ。「すみません。わたし、こういうお誘いには慣れてないんです。それに、今は仕事中ですし」「……若菜ちゃんは真面目だね。まあ、俺は君のそういうところがいいなと思ってるんだけど」「…………えっと」これは褒められているんだろうか? でも、今まで異性から面と向かって褒められた経験に乏しいわたしは(まったくゼロというわけでもないのだけれど)、またもや固まってしまった。こんなふうに、少し男性から(それも全女子社員にとって高嶺の花みたいに思われている人だ)デートのお誘いを受けたり、褒められたくらいでいちいちリアクションに困っているようなわたしには、恋なんて到底ムリだと自分でも分かっていたのだけれど……。* * * *「――ねえ、美緒。これって寛斗さんにからかわれてるだけだよね?」お昼休み、社員食堂で自分で作ったお弁当を食べながら、向かいの席でオムライスを食べている親友の藤崎美緒に訊ねてみた。彼女は高校時代からの親友で、友だちが少ないわたしにとっては貴重な何でも話せる大親友である。ちなみに部署は、寛斗さんが部長を務めている経営戦略部だ。「確かに、連城部長はチャラチャラしてるせいで軽く見られがちだし、けっこういい加減なところもあるけど。それは本気だとあたしは思うな」美緒は自分の上司にも関わらず辛辣なコメントをしつつ、それでも最後は彼が本気らしいと言った。「えっ? どうして分かるの?」
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地味子にご執心のお坊っちゃま Page3
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地味子にご執心のお坊っちゃま Page4
 ――今日も無事定時に仕事が終わり、退勤の打刻をして帰ろうとしていたわたしは、会社のビルのエントランスで美緒に声をかけられた。 「あ、若菜。お疲れー」 「美緒、お疲れ。今日も無事に一日終わった……こともないか」  確かに仕事自体は無事に終わった。けれど、それ以外のところでは無事じゃなかったともいえる。 寛斗さんからデートを申し込まれたことは初めてではなかったけれど、それ以来彼のことが気になり始めているのはわたしにとって生まれて初めての一大事かもしれない。 「それって、ウチの部署の連城部長のこと? そんなのいつものことじゃん」 「うん……。でも、今日は何かいつもと違うの。なんかちょっと、あれからずっと寛斗さんのことが頭から離れなくて。……幸い、仕事にまで差し支えるほどじゃなかったんだけど」 「あらー? それってもしかして、部長のこと気になっちゃってる感じ? 異性として」 「…………ええっ!? ちちちち……違うよ! もう、美菜ってば何言ってんの!?」  わたしは思いっきり動揺しまくって、否定こそしようとするものの、これじゃ「図星だ」と認めているようなものだ。 「……若菜、それじゃ否定になってないって。――とりあえず帰ろ」 「あ……うん、そうだね」  いつまでもエントランスでじゃれ合っていたら、他の社員さんたちの迷惑になる。わたしたちはとりあえず会社のビルを出ることにした。 
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地味子にご執心のお坊っちゃま Page5
 他人の無責任な悪口ほどタチの悪いものはない。その人たちはきっと、実際のわたしがどれだけ頑張って毎日働いているのか知らないから、そんな好き勝手なことが言えるんだと思う。 「そもそも、今まで全っっ然恋愛に縁のなかったわたしがどうやったら男誑し込めるわけ? その人たちバカじゃないの?」 「……若菜、あんたもたいがい辛辣だよね」  わたしも無性に腹が立って珍しく毒舌を吐くと、美緒に苦笑いされた。 普段の性格はどちらかといえば穏やかというかおとなしい方で、目立つことがキライなわたしだけれど、時々腹に据えかねることがあるとこうやって思いっきり心のデトックスをして溜まったストレスを発散している。あとはお休みの日に美緒と遊びに行ったり、会社帰りにカラオケで歌いまくったり。お酒が弱いので、飲みに行くことはないけれど。 「でも、あたしも同感。あいつらバカだよ。若菜はお母さん想いのすごくいい子なのにさ、無責任にあんなこと言うなんて」 「ねー? そいつら、マジで罰当たれって思う」  美緒と二人だと、何でも思っていることを言えるから気が楽だ。これも十分陰口になるんじゃないかとも思うけれど、わたしは先に言われた被害者なので言う権利はあると思う。 「――それはともかくさ、若菜はマジでもうちょっと垢抜けたらすごい美人になると思うよ。あたしで何か相
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わたしに恋を教えて下さい! Page1
「――お母さん、ただいま」 足立区にある団地に帰ると、わたしは三階にある家の玄関ドアを開けて母に呼びかけた。母は団地から自転車で通える範囲にある小さな会社で、フルタイムで事務と経理の仕事をしている。わたしも計算が得意なのは、間違いなく母からの遺伝だろう。 職場が近いので、間違いなくわたしより先に帰っているはずだ。途中でスーパーなどに寄って買い物をしていなければ。 ちなみに、ウチの団地はエレベーター付きなので昇り降りが楽だ。築五十年近くになるけれど、十年くらい前に老朽化と耐震化のためにフルリノベーションしたのでそれほど古さを感じない。「おかえり、若ちゃん。お母さんもちょっと前に帰ってきたところなのよ。部屋で着替えてらっしゃい。それからゴハンにしましょ。今日はハンバーグよ」「やったぁ♪ じゃあ、着替えたらわたしも手伝うよ」 我が家の間取りは2DKで、母とわたしそれぞれの部屋がある。すでに私服に着替えてダイニングで何やらパソコン作業をしていた母に頷き、わたしは自分の部屋へ入っていった。 それほど裕福な生活をしてきたわけではないため、わたしには物欲があまりなく、この自室にも洋服や物が少ない。そんな部屋のクローゼットを開け、それほど多くない洋服たちの中から長袖のカットソーとデニムのスカートを出して、着ていた通勤用の服からそれに着替えた。 ちなみに、わたしもお料理はできる方だ。あまり手の込んだものは作れる自信がないけれど、朝ゴハンやお弁当くらいは簡単にパパッと作れてしまう。 そして、中学生の頃からずっと晩ゴハンは毎日作るのを手伝っていた。母が一人で働いて、わたしを育ててくれていることに感謝していたから。母の恩に報いるために、わたしができることはそれくらいしかなかったのだ。 高校はアルバイトが許可制だったのでできないこともなかったけれど、母が許してくれなかったし。「お母さんは若ちゃんにムリをして、家計を支えてもらおうなんて思ってないから。高校時代は若ちゃんの好きなように過ごしなさいね」と、バイトをするのは大学に上がってからでいいからと遠回しに言われていた。   * * * *「――お母さん、わたしね、今日男の人から初めてお食事に誘われたの。同じ会社の人なんだけど」 ダイニングテーブルで母と向かい合って夕
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わたしに恋を教えて下さい! Page2
「でも、その人は若ちゃんがいいっておっしゃってるんでしょ? それにはちゃんと理由があるんだとお母さんは思うなぁ」 「理由……ねえ。美緒が言うには、わたしの真面目なところとか、御曹司である自分に言いたいことズバズバいってくれるところが気に入ってるんじゃないかって。……でも、彼がわたしにこだわる理由は他にも何かあるんじゃないかなって思うんだけど」  それだけの理由で、あの人がわたしみたいな地味子に固執するとは思えない。わたしの知らない、何かもっと大きな理由があるんじゃないだろうか。……そう言うと、母の表情が少し曇ったような気がした。 「……お母さん、どうかしたの?」 「えっ? ううん、何でもないわよ」  母は慌ててごまかしたけれど、わたしには何となくピンときた。母はその理由に心当たりがあるのだと。それがどうしてなのかは分からないけれど、もしかしたら父のことと何か関係があるんだろうか……? 「…………それで、若ちゃんはその人のこと、どう思ってるの? お母さん、若ちゃんから男の人の話って初めて聞いたけど」 「うん……、えっと、まだよく分かんなくて……。でもいい人だとは思うよ。ただ……、なんか今日一日ね、その人のことがずっと頭から離れないの。どうしてだろ?」  話しているうちに、自分の顔がかあっと熱くなっていくのが分かる。きっと母には顔が真っ赤に染まっているように見えるだろう。 「……若ちゃん、それって恋なんじゃない? その寛斗さ
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わたしに恋を教えて下さい! Page3
 ――翌日。わたしは美緒と二人で電車に揺られ、池袋までショッピングに来た。明後日の寛斗さんとのデートのために、新しい洋服とコスメを買うためだ。そして午後からは、ウチで彼女からメイクレッスンをしてもらうことになっている。 予算は三万円。毎月お給料から五万円ずつ貯めているお金を少し引き出してきた。これだけあれば、いつもよりちょっと値が張る服もコスメも買えると思う。  美緒は社会人になってから上野にあるマンションで一人暮らしをしているけれど、実家はわたしと同じ足立区内にあるらしい。 「ねえ若菜、この際だからインナーだけじゃなくてスーツも新しいの買っちゃえば? ファストブランドのお店だったら安くてちょっとオシャレなのも売ってるよ」 「そうだよね……。せっかくのデートなのに、普段のスーツっていうのもね。じゃあ……そうしようかな」  わたしは美緒の提案に乗り、まずはお手頃価格で洋服が買えるファストブランドのお店に入った。ここでならスーツの中に着るブラウスやカットソーだけじゃなく、靴やバッグまで何でも予算内で揃ってしまいそうだ。  美緒に見立ててもらい、淡いブラウンのスーツと胸元に上品なレースがあしらわれたブラウ
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